レオ・レオー二 作 / 谷川俊太郎 訳
野ねずみのニコラスが甘くておいしい野イチゴを探すお話。
冒険の途中でふたつの大きな出会いがあります。
ひとつは『恐ろしい鳥』、もうひとつは『やさしい鳥の家族』。
どちらも野ねずみとは敵対する『鳥』ですが、出会って一緒に過ごして偏見が解けてゆきます。
ニコラスの心は、かつては自分と同様に敵対心に燃える仲間を諫めて、
友好を説くほどに変化していました。
野ネズミと鳥、一見敵対する種族でも個別では手を取りあえる。
戦争が起こってしまい、緊張する世界情勢のなか、
目の前の出会いを大切にする、本質的な友情のお話だと思います。
ショッキングな1シーン
レオ・レオーニさんの絵本は大好きなんです。
ねずみの造形も、切り貼りした絵のタッチも、心温まる優しいストーリーも。
ただ1点、この絵本にはすこしショッキングな見開きページがあります。
ニコラスの仲間たちの鳥への敵対心が最高潮に達したとき、
入るイメージカットにかなり直接的な暴力が描かれています。
この絵本は漢字は使われず、文章も短いので低年齢向けかなとは思うのですが、
正直小学校低学年までの子どもに読ませるのは、正直私は躊躇します。
しかしシンプルで完結な言葉とストーリーだからこそ、
敵を十把一絡げにすることの愚かしさと、仲良くなることの簡単さが素直に入ってくる。
歴史や戦争の勉強をする前の段階で、この絵本を読んで欲しいという気持ちもあります。
「暴力シーンの許容度」は大人ですら人によって様々です。
そこを見極めるのはそうそうできることではありませんが、
一緒に読んでショックが強いようであれば「ココはとばそっか」
とするのもアリなんじゃないかなとも思います。
長々書きましたが、
読むタイミングは気を遣うが、4年生くらいまでに一度は読んで欲しい絵本です。
戦争のこと
連綿と続く文化文明の中で、私たちはずっと先人から受け継いできて、
またそれを後続へと引き継ぎ続けていきます。
そうしていかなければならないもののひとつに『戦争』があると思っています。
付け加えるならば、大量破壊兵器を用いた近代以降の戦争です。
それは規模からも、客観的な記録メディアや体験者が健在なことからも、
現代人の使命といえるかもしれません。
そしてその引き継いでいく手段としては、そのものの研究や報道、芸能や書籍などでの表現、
教育の場や口伝えなど様々です。
そして本作は、直接的ではないにしろその役目を担っているのではないかと思います。
本作はいわゆる『めでたし、めでたし』で終わる読後感の良い絵本です。
ページ数も少なく、出会いや心理描写など、掘り下げるというよりかは
淡々と描かれています。しかし、その少ない場面の中に
大人になってから読んで考えさせられる表現がいくつも描かれています。
この絵本で平和主義を学んでもらおうとは思いません。
しかし低年齢から読める絵本だからこそ、平和の種を
心の隅にそっと植えることができるのではないかと思います。
顔の見えない相手への無垢な敵意。
見知らぬ相手への無償の愛情。
コミュニティを超えた打算の無い友情。
ものの大小はあっても、誰しも持ち合わせているものだと思います。
この種をどう育むかは分りませんが、この絵本を読んだお子達が
大人になって戦争を考えるとき、より優しい手段を選べることを
心より祈っています。
(前述のシーンについては、親御様が先に見ておいた方がいいかもと思います。考えすぎかも知れませんし、筆者自身この心境も変化するかもしれません。しかし誰が何にに対して傷つくかということは、老若男女問わず永遠の問いであると思います。ご参考になるかは分かりませんが筆者のおもいとして。)
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