エリック・カール さく/もり ひさし やく
あえて紹介するレベルの作品ではないかもしれませんが、
やっぱりとても好きで素敵な作品なのでおすすめしたいと思います。
あらすじ
ある月夜の晩、ひとつの小さなたまごがありました。
たまごからうまれたあおむしはお腹がペコペコ。
月曜から金曜、そのさきもずっとあおむしはお腹をいっぱいにするために食べ続けます…。
幼年向けに不朽の名作
まずなんといっても豊かな色彩表現が素敵過ぎます。
画材の特性を知って、様々な技法を駆使して作った素材を
思い切って切り貼りしたり破ったり、その上から更に描いたり、
『確かな技術』と『遊び心』が見事に同居しています。
『絵』であると同時に『柄』でもあるようで
何度見ても飽きません。
自由へ広がる余白の妙
そして本作には様々な『余白』が活かされているように思います。
まず画面としての『余白』、最初の月夜のシーン以外は背景がありません。
この真っ白な背景に色彩豊かなあおむしや食べ物がもの凄く映えます。
鮮やかな色をたくさん使っているにもかかわらず、
無理なく色をまとめている為、目にうるさくありません。
それが背景の白によってより強くはっきりと浮かび上がり、
元気いっぱいのあおむしと、美味しそうな食べ物が
優しく力強く目に飛び込んできます。
次にストーリーの『余白』。
ストーリーは簡潔で低年齢でもするすると読めると思います。
そしてラストシーンがとても煌びやかな1枚絵で締めくくられています。
ネタバレを避けたいので詳細は控えますが、
桃太郎で例えると、『鬼たちを退治することができました。』で終わっているんです。
(本作をご存じの方、伝わりますか???)
めでたしめでたし、の半歩手前で終わっているんです(あくまで筆者の印象ですが)。
このストーリーの余白が後日譚を想像させますし、
あるいはこの最も美しいシーンこそがラストにふさわしいとも思えます。
(人気絶頂のバンドが解散するような…。伝わりますか?)
もちろん捉え方は読む方それぞれですが、この半歩手前が選択肢を広げてくれます。
最後にしかけの『余白』。
あおむしがいろいろなものを食べるシーンはしかけ絵本になっています。
しかしこのしかけ部分、「起承転結」の「承」の部分だけなんです。
『しかけ絵本』というかなり大きい要素が、
事の始まりにも、美しいラストにも関わっていないのです。
では添え物かというとそうではなく、
元気いっぱいの『虫食い』を表現するのにこれ以上ない方法だと思います。
つまり必然性のある『しかけ』も用いながらそれに終始しないという、
絵本の肝にしかけが無いという『余白』。
これが背景も描きこまれた冒頭と、鮮烈なラストシーンをしっかり際立たせています。
余韻ではなく余白、その余裕が絵本を通して、
果てしない想像の世界へ大人も子どもも旅立たせてくれるようにです。
この3つの『余白』によってすんなり絵本の世界に入り込み、
その世界の広がりに思う存分想像力を働かせ、
楽しいもの美しいものが通り過ぎていくなか、
あおむしの成長の物語に没頭できるのではないか、と思います。
やっぱり愛され続ける
本作はコラボやグッズ展開が多いので、
絵本を知らなくてもこのあおむしは知っているという方も多いのではないでしょうか?
かくいう筆者も存在だけは先に知っていて、
ちゃんと読んだのは大人になってからでした。
おススメするという目的があるからでもあると思いますが、
改めてじっくり読んで、魅力再発見の連続でした。
長年世界中で愛され続けているのは伊達じゃあありませんね。
子どもにも見せる機会がないまま、それなりの学年になってしまいましたが、
一度は読んで欲しい、掛け値なしにそう思える作品です。
もちろん今まさに低学年までのお子さんとお過ごしの方には、
是非一緒に読んで頂きたいと思います。
このちいさなあおむしと共に、健やかに成長されることを祈って。
英語と一緒に読むのも
英語でも読めるバージョンもあるようです。
今回は実はこちらを図書館から借りてきました。
やはり文化が違うので、それを私たちの心にすとんと落とし込める
もりひさしさんの言葉選びには感動します。
冒頭から少し紹介すると、
In the light of the moon a little egg lay on a leaf.
「おや、はっぱの うえに ちっちゃな たまご」
おつきさまが、そらから みて いいました。
とあります。とても優しい口調の語り手さんが居ますね。
筆者は英語はとんと分かりませんが、原文では情景の描写に止まっているようにも思います。
翻訳は「語学力よりセンス」だと聞いたことがあります。
原作者が見た世界、伝えたい世界を、
言語も文化も違う国の子どもたちに伝える橋渡しをする。
もりひさしさんの鋭い感性と確かな技術が、
原作の世界観を私たちに非常にすんなりと腹落ちさせてくれます。
原文と併記されていることで、より日本語の美しさが際立ちます。
英語の学びにも、より豊かな日本語の学びにもいいのではないでしょうか?
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