あな  谷川俊太郎 作 和田誠 絵

おすすめ絵本
シンプルな表紙。配色は読み進めていけば理由が分かります。角の傷はわんこの歯形。

シンプルな文とイラスト

著者名以外漢字の出てこない絵本なので、小学校低学年向けです。

色数も線も少なく、文章も短い中でのひとつひとつのさりげない描写が

淡々としていつつも登場人物の息遣いを感じさせます。

あらすじ

ひろしは穴を掘り始めます。

そんなひろしに対して、なんやかんやと反応する家族や友人たち。

それぞれの反応に対する、ひろしのそれぞれの対応。

穴の進捗に対するひろしの向き合い方と心の変化。

物語というほどではない、なんでもない一日のできごと…。

ただ、熱中すること

ひろしは一心に穴を掘り続ける。時折の呼びかけにはどこか素っ気ない。

それくらい何かに熱中することを、誰しも大なり小なり経験したことがないだろうか?

勉強でも読書でもスポーツでもゲームでも、なにかに『ハマる』という熱量はとてつもない。

そして『ハマった』経験は絶対に資産になる。これは自信を持って言える。

手に入れたスキルも没頭した経験も、更に深堀りすることはもちろん

別の分野に応用することもできる。『鍛えられる武器』を手に入れたも同然だ。

ひろしと同じように、何か行動を起こすときにはただ没頭していたいと思う。

何が得れるかは分からない。何もないかもしれない。

外野がなんやかやというかも知れない。素っ気なくするかも知れない。

結果を思い描いて突き進むわけでもなく、ただ熱中する。

ハマることは素晴らしい

母曰く、それぞれ年の離れた我ら3姉弟も「なんとなしに」それぞれ読んでいたらしい。

凝った表現が無いので低年齢からでも無理なく読める。

そして今、アラフォーになって読み返しても非常に楽しめる。

なんといっても谷川俊太郎さんと和田誠さん、この両巨頭が凄い。

谷川俊太郎さんといえば日本を代表する詩人で、誰しも小学生の頃に一編や二編触れたことがあるのではないだろうか?

そして和田誠さんは数々の装丁や挿絵で活躍されているが、筆者と同年代(80’生まれ)までの方なら

『ゴールデン洋画劇場』のオープニングアニメが印象に残っていることと思う。

ゴールデン洋画劇場Op:1995/4/1

このお二方の描写の少なさが非常にマッチしている。絵も文も、分かりやすく情報量が少なく

しかし『ここにはこれがなければならない』という絶妙な一文、一本の線がある。

その最低限かつ不可欠な描写が、ひろしの息遣いを感じさせ、熱中する姿に引き込まれる。

この絵本を改めて読んで

ビジネスだったり、生死に関わるようなことは別として

何かに熱中することによって直接的に得られるものや、他人の声は大した意味を成さない。

熱中することの積み重ね、あるいはその経験を以て別のことに目を向けたとき、

その資産価値は強固なものかつ多様性を持つ。

とりあえず自分を信じてやってみる。自分と向き合って続けてみる。

ふと立ち止まって振り返って、自分の残したものをよく見てみる。

それはこの目まぐるしく価値観が移り変わる現代を自分らしく生き抜くにあたり、

非常に重要な意味があるのかも知れない、と思ったりする。

さて、熱中しよう。

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